お客様の要望に基づいて間取りを考えているときに、悩むことがあります。居間には小テーブルにソファーを置くのか、それとも座卓に座布団なのか。どちらになるかでスペースの取り方が大きく変わってくるのです。簡単に言うと、椅子に座ってくつろぐのか、床に直に座ってしまうのかの違いになってきます。
昔、ソファーは憧れで何も考えず購入されていたと思いますが、今でも新築すると多くの場合ソファーが置かれるのではと思います。はたして、日本人はどのように使っているのでしょう。私が思うには、ソファーは背もたれかベッドになる頻度が高いのではと思います。正しい形で座るのは、お客様がいらっしゃった時か、かしこまった時だけのような気がします。結局、日本人はゴロゴロしたいみたいです。
更に、購入予定のソファーの大きさが不明のため、スペースが十分確保されず、後ろにはサイドボードなんかがあって、物を取り出す時はソファーを寄せなければならないなんてことがよく見られます。これはソファーの本来の使い方ではありません。ほとんどの日本人はどうやら使いこなせていないようです。
それに、「リビング」と言われると、なんとなく「ソファーを置かなきゃ」という気分になり、「茶の間」と言われると座卓になるような気がします。不思議です。
そもそも、多くの日本人は床の上に腰をおろしたいと思っているのではないかと思います。しかし、フローリングがブームとなり表面がプラスチックである合板床が主流になったことで、床は「冬は冷たく、夏はベタつく」という代物に変わり、直に座れる素材ではないという認識も少なからず関係しているのではないかと感じます。その証拠に、ソファーを置いているが直に座ってしまっている方々のほとんどは、セットで絨毯か、ラグマットを敷いているはずです。
このように考えますと、ソファーを置く置かないは別にして、床に直接座る生活を選択した場合は、「冬暖かく、夏ベトつかない」樹脂加工されない無垢の床材を設計に組み込む必要があります。もちろん、世の中にはしっかりソファーを使いこなしている日本人の方々もたくさんいらっしゃるとは思うのですが、冬は冷たく、夏はベタつく合板フロアーの床は、西洋のような土足生活のように直に床に座る事ができないので、ソファーや椅子が必要なのだと思います。でも居間でゴロンと寝そべりたい時はフカフカするソファーは重宝するかなと思うこともありますが、日本人的には、思い切って居間を柔らかめの畳にしてしまうのも一つの方法かもしれません。
私たちは、展示場でも完成見学会の時でもスリッパを出していません。出来れば裸足になっていただきたいと思うくらいです。それは暖かい床ということを少しでも理解していただきたいからでありますが、「スリッパを履かなくていいのですか?」と聞かれることがあります。もしかすれば「スリッパも出さずに失礼な会社だ」と思っているお客様もいらっしゃるかもしれません。
そこで、スリッパを使う意味を考えてみると、『足が冷えるのを防ぐ為』と、『足が汚れないようにする為』の2つです。迎える側にとっては出さなければ失礼にあたり、迎えられる側にとっては履かなければ失礼にあたるような気がします。まるで「お客様にはお茶を出す。出された方は残さず頂く」みたいな、礼儀作法の一つの様になっている感じです。また、通された部屋にカーペットが敷いてあると、どこで脱いだらいいのやらとても悩みます。招く側にとってはお客様の足が冷えないようにとの配慮でしょうが、スリッパを履いて歩く距離は数メートル程度、ましてやスリッパを履かなければ靴下が汚れてしまうようなお宅は殆どありません。
私たちの事務所は床も全て無垢材でつくられていますが、初めの内はみんなスリッパを履いていましたし、お客様にもスリッパを出さないと失礼にあたると思っていました。しかし、6年経った今、職員は誰も履いていないですし、お客様にもお出ししておりません。それはこの建物ではスリッパを履くメリットが全く無く、デメリットばかりであることに、それぞれが自然に気付いたからなのだと思います。そしてスリッパを履かないことがとても自然なことになってしまいました。でもトイレに関してはしばらく抵抗があり、スリッパを置いていましたが、結局邪魔なものになってしまい、今ではトイレにも無いことが自然です。
私たちの事務所が展示場内にあるため、お客様をお迎えする手前、裸足という訳にもいかず、夏でも靴下は履いていますが、ユーザーの方々は、スリッパどころか冬でも靴下すら履かないとおっしゃいます。女性でも履いていないそうです。わかってはいたものの、びっくりです。床の素材一つでスリッパが不要な物になってしまうのです。→(ユーザーアンケート)
こんな無垢の木の床に慣れている私たちも、裸足で合板フロアーやクッションフロアーを歩くことはよくありますが、冬は冷たくて辛くなりますし、夏はベタベタして色んなゴミが足の裏に付いてやっぱり不快です。
でも、スリッパ生活をしている方々は、冷たくなってしまう樹脂塗装の床が原因でスリッパが必要なのだとは決して思っておらず、『木の床はこんな物だろう』と理解されているのだと思います。 合板のフローリングは、表面のほんの数ミリしか本物の木材ではないし、さらにその上には摩耗し難いように樹脂がたっぷり塗り重ねられています。摩耗に耐える為に使われる樹脂の触った時の感覚はプラスチックというよりガラスに近い素材です。完成後触れられる部分は100%この樹脂だということは不思議とあまり知られていないようです。
室内でスリッパを履くということは、外で靴を履くことと意味合いは同じです。「冷えないように、汚れないように」ですから。であれば『アメリカ人のように土足の生活をすれば良いのでは?』という話になるのですが、「ソファー」を考えた時に話が出た通り、日本人は床に直にゴロゴロしたい習性を持っていますので土足で床を汚す訳にはいかないのです。 西洋でもスリッパはあるようですが、現在日本にあるような物ではなく、どちらかというと室内用にも使うサンダル(外履き兼用)といった感じみたいで、床に直に座ることもありません。
以上のことから整理してみると、何度も言いますが『日本人は床で直にゴロゴロしたいし、素足でいたい』という習性を持っています。この欲求を満たす為には、結局、触ると暖かいスギやヒバなどの針葉樹を床材として使い、樹脂塗装はしないという昔ながらのやり方に落ち着きそうですね。