一時期、ローコスト住宅を手がける住宅会社が調子良かったようです。私たちの所にも『ローコスト住宅のフランチャイズに加盟しませんか?』と様々な所からFAXが届きます。
これらのローコスト住宅は、坪あたり20万円台後半~30万円台といった価格設定です。少し前までは新聞チラシに上記価格を載せていましたが、最近はなぜか坪単価はあまり載せていないようです。消費税込みの価格で掲載することがネックになったのか、実際その値段では完成しないので問題になったのか、きっと何か理由があるのでしょう。
仮に、オプションがあったとしても坪40万円以内で収まるのでしたら、それでも確かに安いです。価格だけを見ればとっても魅力的です。しかし、手放しで受け入れてよいものでしょうか?当然住宅会社の利益が20%位含まれているでしょうし、下請け業者の利益も含まれています。当然利益が出なければ誰もその仕事は請けません。ボランティアではないのです。ということは、これらの利益を除いたとすると、実際には坪30万円位でつくっていることになります。この予算では大量生産される新建材(合板建材)で形にするのが精一杯です。きっと5年も経てば、愛着が無い家になってしまいます。ましてや私たちが目指している健康住宅をつくるにはかなり難しい価格です。
住宅のローコスト化には幾つかの手法があります。先ずは、標準仕様で最低限の設備しか設定されていない場合、必ずオプションを追加しないと生活できず、結局普通とあまり変わらない価格になってしまうというケースです。オプション品は大量発注が約束された標準品よりかなり割高に設定しておりますが、実はこのオプションによって利益の上乗せを狙っている場合が多いようです。如何にして追加を取るかが勝負のようです。よって、ローコスト商品は、標準仕様のままでなければ実は価格的メリットがあまりありません。『ローコストで建てる』と決めたのであれば、どうしても必要なものは別として、標準仕様のままとりあえず建てて、将来リフォームする時に好きなものに交換すると割り切った方が賢いと思います。『どうせだから』と追加の予算を検討するのであれば、ゼロから再検討された方が得策です。愛着が続かない家に追加のお金を投入しても、とてももったいないです。
次に、住宅設備機器や建材、例えばキッチンやユニットバスや床材など、人気が無かったり、型遅れになって通常ルートでは販売困難になってしまった商品を大量に一括仕入れをして、フランチャイズ先に供給して価格を抑える方法があります。これはまだいい方です。価格を抑えたからといって機能上問題があるものではありませんので。心配なのは、多くのフランチャイズは、元々住宅設備機器メーカーや建材メーカーが自社の商品を売るために始めたことですから、場合によっては粗悪品を提案している可能性もあります。例えば、アパート建築などでは、大家さんは家賃収入にしか興味がありませんので、とにかく安く建てようとする訳ですが、この場合、『機能上は問題ないが少し形が歪かな?』と思えるものや、『床材の溝を彫る位置が実際の板のパターンからずれていた』などという建材が使われていたりします。もちろんその他の資材も在庫品のオンパレードで建てるケースが多いです。これは極端な例かもしれませんが、ローコスト住宅はアパートとあまり変わらない材料を使っていると考えた方が自然です。アパートの場合は後々のメンテナンスも考えた家賃設定で、借り手が変わるたびに壁のクロスをキレイに張替えますが、住宅の場合はそうもいきません。
また、『フランチャイズ契約をしているのでうちの会社はとても仕入れが安いんです』と価格の安さを正当化しようとしていますが、実はそうでも無いらしいのです。フランチャイズ契約をしたからには、資材も必ずそこから買うことになっていますので、足元を見てそれほど安くは出していないようです。実際『他から買ったほうが実は安いんだよなー』と言っているのを聞いたことがあります。
一番困りものなのは、実際に現場でその家をつくる下請けの職人さんの手間賃を思いっきり抑えることです。ローコスト住宅の場合、仕様自体は簡略化されていますので、あまり考えることを必要とせず、経験の少ない大工さんでもパタパタとつくれるのですが、それでもよほど段取り良く、ハプニングもなく、天候も良く、といった、これ以上ない好条件の元で手間賃が設定されています。その代わり、難しい要求は無しで、仕事がなくならないように次々に与えるという約束なのです。場合によっては、明らかに赤字でも、次の仕事を期待して仕方なく請けるのだそうです。裏を返せば他に使ってくれる会社がないので仕事を続ける以上、仕方がないのです。もちろん腕の良いベテランの大工さんでは割りに合わないので必然的に、手間の安い若い大工見習いレベルのチームになってしまいます。
職人は手間賃が安ければ、当然次々に仕事をこなさなければ儲けが無くなってしまいます。時間を掛けてキレイにつくりたくても親方に怒られます。これだと、『仕事をこなす』ことだけが目的になってしまいます。大雑把な仕事になるのは当たり前のことです。
その他に、間取りやデザインをパターン化して、規格商品にして、同じ建物をつくり続けることで価格を抑えるということもします。この手法をとることによって、営業マン、設計者、現場監督などの全ての人員が、給料が安くて済む若葉マーク社員で十分こなせるというメリットもありますが、社員の入れ替わりも激しいのも事実のようです。
世の中のどんな物にも適正価格というものがあります。それよりも安いということは、安いなりの理由やカラクリが必ずあります。 きちんとした知識や技術を持った設計者、職人さんに依頼するためには、やはりそれなりにコストは掛かります。
最後に、あるローコスト住宅の大工工事中の現場を見学させてもらったことがあるのですが、『この人たちは大工じゃない、私のほうがもっと上手にできる』と思ってしまいました。ちなみに私は設計者です。